📖 蔵書006|塩は控えるべき?選ぶべき?毎日の塩との上手な付き合い方

「塩分は控えたほうがよい」といわれる一方で、「減塩しすぎると体によくない」「自然塩なら多く摂ってもよい」といった話を目にすることもあります。

海水からつくる塩、天日塩、岩塩、精製された食卓塩。原料や製法もさまざまで、どれを選べばよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。

塩は、私たちの体に欠かせないものです。しかし、必要だからといって、多く摂るほど健康によいわけではありません。

本書では、塩を一方的に悪者にするのでも、特定の塩を万能視するのでもなく、「量」「製法」「使い方」の3つの視点から、毎日の塩との付き合い方を考えます。


1.塩は体に必要なのに、なぜ「減塩」といわれるのか

食塩の主成分は、塩化ナトリウムです。

ナトリウムは、体内の水分量や浸透圧を調整し、神経や筋肉を正常に働かせるために必要なミネラルです。胆汁や膵液、腸液などの材料にもなっています。

つまり、塩は生命維持に欠かせません。

一方、ナトリウムを長期間にわたって過剰に摂ると、血圧の上昇や循環器疾患などのリスクを高めることが分かっています。

「塩が必要であること」と「現在の食生活では摢りすぎになりやすいこと」は、矛盾しません。

大切なのは、塩を摂るか摂らないかではなく、必要な範囲を大きく超えないことです。


2.日本人は本当に塩不足なのか

「減塩が広がったため、日本人は塩不足になっている」という話を見聞きすることがあります。

しかし、日本人全体の平均値を見る限り、そのようにはいえません。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の食塩摂取に関する目標量が次のように示されています。

  • 成人男性:1日7.5g未満
  • 成人女性:1日6.5g未満
  • 高血圧の予防・管理:1日6g未満

一方、令和6年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の食塩摂取量の平均は1日9.6gでした。

  • 男性:1日10.5g
  • 女性:1日8.9g

男女とも、平均摂取量は目標量を上回っています。厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」

また、通常の食生活では、ナトリウムが不足する可能性はほとんどないとされています。厚生労働省「ナトリウム」

したがって、

減塩によって日本人全体が塩不足になっている

とは考えにくく、現在も全体としては「不足」より「摂りすぎ」に注意する必要があります。


3.個人によってはナトリウム不足が起こることもある

平均的な日本人は塩分を多く摂っていますが、どのような場合にも減らせばよいわけではありません。

例えば、次のような状況では、水分とともにナトリウムなどの電解質が失われることがあります。

  • 高温環境で長時間働いたとき
  • 激しい運動などで大量に汗をかいたとき
  • 嘔吐や下痢が続いたとき
  • 利尿薬などの影響を受けているとき
  • 特定の病気によって水分や電解質の調整が乱れているとき

ただし、血液中のナトリウム濃度が低くなる「低ナトリウム血症」は、単に塩を食べなかったことだけで起こるものではありません。体内に水分が過剰にたまった場合など、水分とナトリウムのバランスが崩れることでも起こります。

夏に汗をかいたからといって、すべての人が日常的に塩を追加する必要があるわけでもありません。

発汗量、食事内容、持病、服用している薬などによって対応が異なるため、自己判断で極端な減塩や塩分補給を続けないことが大切です。


4.日本人はどこから塩分を摂っているのか

「塩分が多い食品」というと、加工食品やファストフードを思い浮かべるかもしれません。

もちろん、カップ麺、スナック菓子、加工肉、惣菜などには塩分の多いものがあります。しかし、日本人の場合は、それだけではありません。

厚生労働省の資料によると、日本人が摂る食塩の約7割は、食塩、しょうゆ、みそなどの調味料に由来しています。厚生労働省「自然に健康になれる持続可能な食環境づくり」

つまり、家庭で丁寧に手づくりした料理でも、

  • しょうゆを何度も回しかける
  • みそ汁を何杯も飲む
  • 煮物の味を濃くする
  • 漬物や干物を重ねて食べる
  • 麺類の汁をすべて飲む

といった食べ方が重なると、塩分は多くなります。

加工食品だけを避けていれば安心、とは限らないのです。


5.加工食品の塩と、家庭料理の塩は違うのか

同じ塩化ナトリウムであれば、加工食品に使われた塩も、家庭で加えた塩も、体内ではナトリウムとして扱われます。

「加工食品の塩は悪いが、手づくり料理の塩は問題ない」と単純に分けることはできません。

ただし、食事全体には違いがあります。

加工食品や外食は、味付けを自分で調整しにくく、実際にどれだけ塩分が入っているのか分かりにくいことがあります。一方、家庭料理なら、使う量を調整し、だし、酢、香辛料、香味野菜などで味に変化をつけられます。

注目したいのは、塩の「善悪」よりも、

  • 1食にどれくらい含まれているか
  • 1日を通してどれくらい摂っているか
  • 自分で使用量を調整できるか
  • 野菜や果物なども含めた食事になっているか

という点です。


6.海塩・天日塩・平釜塩・岩塩の違い

塩は、原料と製造工程によって特徴が変わります。

種類・製法主な特徴
イオン膜・立釜海水中の塩分をイオン膜で集め、密閉した釜で結晶化する
天日塩海水などを太陽と風で蒸発させ、結晶化する
平釜濃い塩水を開放された釜で加熱し、結晶化する
溶解・立釜天日塩などを水に溶かして不純物を除き、密閉釜で再結晶化する
岩塩地中にある岩塩層から採掘する

日本は雨が多く湿度も高いため、広大な塩田で海水を自然蒸発させる大規模な天日製塩には、あまり向いていません。そのため、海水を濃縮して釜で結晶化する製法が発達しました。

「ろ過」は、それだけで塩をつくる方法ではありません。濃い塩水から砂や異物を取り除くなど、製造工程の途中で用いられる処理と考えると分かりやすいでしょう。

製法によって粒の大きさ、水分量、味わい、料理へのなじみ方などが変わります。塩事業センター「塩のつくり方」


7.自然塩にはミネラルが多いというのは本当か

海水由来の塩や岩塩には、ナトリウム以外に、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどが含まれる場合があります。

製品によっては、精製度の高い塩よりも、これらの成分を多く含むことがあります。その違いが、苦味、甘味、まろやかさなどの味わいにも影響します。

ただし、塩を主要なミネラル補給源と考えるのは適切ではありません。

ピンクソルトを分析した研究では、通常の食塩より多く含まれるミネラルが確認されましたが、それらを栄養上意味のある量だけ摂ろうとすると、同時に多量のナトリウムを摂ることになると報告されています。ピンクソルトの成分分析研究

ミネラルは、野菜、果物、海藻、豆類、魚介類など、食事全体から摂ることが基本です。

ミネラルを含む塩だから、多く摂ってもよい

ということにはなりません。


8.岩塩には好ましくない成分が含まれているのか

岩塩は、古代の海水などが地中で結晶化したものです。産地によって鉄などの微量成分を含み、色や風味が異なります。

自然由来のものにはさまざまな微量成分が含まれるため、製品によっては鉛などが検出される場合があります。

前述のピンクソルトの研究でも、調査対象となった製品のうち1点から、オーストラリアの基準値を超える鉛が検出されました。

ただし、この結果だけで「岩塩はすべて危険」と断定することはできません。含まれる成分や量は、産地、採掘場所、精製方法、品質管理によって異なるからです。

岩塩に限らず、輸入品や特徴的な塩を選ぶときは、

  • 食用として販売されているか
  • 原産国や製造者が明記されているか
  • 品質管理について確認できるか
  • 極端な健康効果をうたっていないか

を確認しましょう。

自然由来であることは、それだけで安全性や健康効果を保証するものではありません。


9.「食卓塩は塩化ビニール製造の副産物」という説は本当か

インターネットなどでは、

一般的な食卓塩は、塩化ビニールを製造した際の副産物である

と説明されることがあります。

しかし、これは塩と化学工業の関係が逆に伝わったものと考えられます。

工業の世界では、塩水を電気分解することで、苛性ソーダ、塩素、水素がつくられます。その塩素が、塩化ビニルなどのさまざまな製品の原料として利用されています。経済産業省「化学分野における技術ロードマップ」

つまり、

  • 塩化ビニールの製造後に残ったものが食卓塩になる

のではなく、

  • 塩が化学工業の原料となり、その先で塩化ビニルなどがつくられる

という関係です。

一般的な「食卓塩」は、輸入した天日塩を水に溶かし、砂などを取り除いてから再結晶化させ、固まりにくくするために炭酸マグネシウムを加えてつくられています。塩事業センター「溶解・立釜法」

「化学工業でも塩が使われている」という事実と、「食用塩が工業製品の廃棄物からつくられている」という話は、分けて考える必要があります。


10.塩を選ぶときは、パッケージのどこを見る?

塩を選ぶときは、イメージだけで判断せず、パッケージの表示を確認しましょう。

原材料名

「海水」「岩塩」「天日塩」など、何を原料にしているかを確認します。原産国や産地も参考になります。

製造工程

「イオン膜」「天日」「平釜」「立釜」「溶解」「乾燥」「焼成」「混合」などの表示から、どのようにつくられたかを確認できます。

工程用語の意味は、食用塩公正取引協議会の資料で整理されています。食用塩公正取引協議会「表示でわかるお塩のプロフィール」

栄養成分表示

食塩相当量のほか、製品によってはマグネシウム、カリウム、カルシウムなどが記載されています。

添加物

固まりにくくするための炭酸マグネシウムや、調味成分などが加えられている場合があります。

添加物があるから危険、ないから健康的という単純な話ではありません。何が、どのような目的で使われているのかを確認することが大切です。


11.毎日の塩と上手に付き合うための6つのポイント

1.「自然塩なら多く摂ってよい」と考えない

どの塩も主成分は塩化ナトリウムです。味や使いやすさで選んでも、摂りすぎには注意が必要です。

2.栄養成分表示の「食塩相当量」を見る

加工食品や惣菜では、1食分にどれくらい含まれているかを確認します。

3.調味料の重ね使いに気をつける

みそ、しょうゆ、めんつゆ、ドレッシング、漬物などが一度の食事に重なると、塩分が増えやすくなります。

4.だし、酸味、香り、香辛料を活用する

塩味だけで味を整えようとせず、だし、酢、レモン、しょうが、ねぎ、こしょうなどを使うと、少ない塩分でも満足しやすくなります。

5.汁物や麺類の汁を残す

みそ汁の回数を調整する、麺類の汁を飲み干さないといった工夫でも、摂取量を減らせます。

6.持病や服薬がある場合は自己判断を避ける

高血圧、腎臓病、心臓病などがある方や、利尿薬などを服用している方は、塩分やカリウムの扱いが一般の人と異なる場合があります。医師や管理栄養士の指示を優先してください。


12.まとめ|塩を敵にも、万能食品にもしない

塩は、体にとって欠かすことのできないものです。

しかし、現在の日本人の平均的な食生活では、塩不足よりも摂りすぎのほうが課題になっています。

海塩、天日塩、平釜塩、岩塩などには、製法、味、粒の形、微量成分の違いがあります。料理や好みに合わせて塩を選ぶ楽しみはあってよいでしょう。

ただし、どの塩を選んでも、摂取量への配慮が不要になるわけではありません。

塩との上手な付き合い方とは、極端に遠ざけることでも、特別な塩を万能視することでもなく、正しい情報を知り、食生活全体の中で適量を使うことではないでしょうか。


🌳 年輪より

この一冊は、お客様との出会いを通して積み重ねてきた知識と経験をもとにまとめました。
これからもCLAILEは、知識という年輪を一冊ずつ積み重ね、未来へ残してまいります。

※「本書は一般的な情報を提供するもので、個別の診断や治療に代わるものではありません」

\ 最新情報をチェック /

  • X